黒ちゃんの漫画こぼれ話 第2話 黒笹慈幾
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去年に引き続いて今年も、「釣りバカ日誌」の原作者、やまさき十三さんが高知にやってくる。「第2回全国漫画家大会議」に出席するためだ。漫画を描いている北見けんいちさんの方は体調がイマイチということで、今年は欠席とのこと。残念である。
「釣りバカ日誌」は昨年10月に小学館から刊行された「ご一行様、ご来高!?の巻」(単行本第93集)で丸ごと一冊、高知県を舞台にストーリーが展開している。原作者のやまさき十三さんが高知県内各所で精力的な取材を敢行して原作を書いてくれたのだ。
じつは、やまさき十三さんは黒ちゃんと同類のどうしようもない「釣りバカ」で(失礼!)、「大会議」が終わったあとの浦戸湾の「ハイカラ釣り」を楽しみにやってくるのである。去年、仕掛けをブチ切られた「得体の知れない大物」(魚種は分からない。たぶん鯛の巨大なやつだとおもう)とのリベンジ・マッチを狙っているのだ。私もなんとか釣ってもらおうと準備万端整えているところである。
黒ちゃんは若いころに配属された青年コミック誌「ビッグコミックオリジナル」で「釣りバカ日誌」の初代担当者だった。それがいつの間にか主人公・浜ちゃんのモデルという噂が立ち、高知に移住してからの人生が大きく変わってしまった。東京の出版社を定年退職して地方のどこか知らない町での「ハッピーリタイアメント」ライフを夢見ていた。ひっそりと人知れず「毎日が釣り日和」の日々を送るつもりだったのだ。原作のやまさき十三さんは、黒ちゃんの平穏な老後の人生を書き換えた張本人ということになる(恨んではいませんが)。
「釣りバカ日誌」はのちに松竹で映画化され、「究極のサラリーマン・コミック」として世間に広く知られるようになったが、スタート時点ではそんなことは想像すらできなかった。
当時、原作のやまさきさんは映画の助監督出身の駆け出しの原作者、北見けんいちさんは売れっ子漫画家・赤塚不二夫さんのアシスタントだった。黒ちゃんは入社6年目、29歳の駆け出し編集者。「駆け出しトリオ」で新しい作品を作ることになったのだ。
じつは作品の取材の段階で、当時の関係者以外は知らないまさに「危機一髪の事態」が起きていた。このときの奇跡的な幸運がなければ「釣りバカ日誌」は世に生まれていなかった。もう時効だと思うので、そのことを書こうと思う。
作品の取材のために、早朝の(5時くらいだった)東名高速道路下り線を走って静岡市に向かっていたわれわれの車の直前で、その事故は起きた。車には原作のやまさきさんと、私を含む編集部の人間の3人、計4人が乗っていた。
100mほど先の走行車線を走っていた大型トラックが急に車線をまたいで蛇行し始めた。あとで居眠り運転が原因だと判明したが、追い越し車線を走っていた後続の大型トラックに接触して横転、我々の車の行く手をふさぐ形になった。
急ブレーキをかけたが間に合わない。あわや衝突かと思った時に奇跡が起きた。我々の後ろを走っていた大型トラックが急ブレーキを踏んだ我々の車をギリギリ回避して前方の横転している車に突っ込んだのだ。行く手をふさいでいた大型トラックの露払いを後ろのトラックがやってくれた格好になり、我々の車は正面衝突を免れたのである。まさに間一髪であった。
「もしあのまま突っ込んでいたら」
「もし後続のトラックが露払いしてくれなかったら」
そう思うとぞっとする。いまでもその光景がフラッシュバックする。
静岡県の高速道路交通警察隊の人が
「大型トラックを何台も巻き込んだ多重事故なのに、普通車のあんたたちはよく助かったよね」
とあきれたほどである。
たしかにあの幸運がなければ、われわれ4人の生命はなかった。「釣りバカ日誌」も生まれず、「釣りバカ日誌・高知編」も実現しなかった。運命の不思議さを実感させられる事件だった。
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