【大会議】「真島、土佐で爆ぜる」トークショーレポート
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『THE MOMOTAROH』『超機動暴発蹴球野郎 リベロの武田』『陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす!』(以下、『真島クンすっとばす!』)など、小気味良いギャグとシリアスな勝負シーンの絶妙なミックスが魅力のにわのまこと先生の作品世界。「真島、高知で爆ぜる!!」と題されたトークショーでは、にわの先生が漫画家となったいきさつや、これまで手掛けられた作品の制作秘話、そして『陣内流柔術流浪伝 真島、爆ぜる!!』(以下、『真島、爆ぜる!!』)の今後の展望についても明かしていただきました。
学生プロレスの経験が 自らの作品の原点
──『THE MOMOTAROH』『真島クンすっとばす!』『ターキージャンキー』など、にわのまこと先生の作品では格闘技をモチーフにした作品が数多くあります。
にわのまこと(以下、にわの): ぼくが描く格闘漫画の原点は、自分自身がレスラーとしてリングに上がっていた学生プロレスなんじゃないかと思っています。学生プロレスって、半分ウケ狙いでやっているところもあるので、そういうお客さんの笑い声や「おおっ」て言うどよめきが快感になっていて。
プロレスは良くも悪くも、勝った負けただけの世界ではない。やっていることは、命懸けのエンターテインメントなわけです。そういう空気感を『THE MOMOTAROH』や『ターキージャンキー』には求めていました。勝負論で主人公をくくって、何が何でも絶対に勝つことに主軸を置いているのが『真島クンすっとばす!』だと思います。
そのため、僕の描く格闘漫画はお客さんの前で試合をしているケースが圧倒的に多いです。誰もいないところで決闘する、みたいなシーンは、希にはありますが、比率としては低いと思います。
──観衆がいないと地味な戦いを描いてしまう?
にわの: 一対一の勝負論だけを展開する話だと、もうメチャメチャ地味に描くと思います。関節技を決めたり、指の骨を折ったり、間合いだけで10分、20分の駆け引きがあったり、会話も「……」ばかりとか(笑)。必殺技を叫ぶこともまずないです。
僕が描く漫画は、言ってみればファンタジーの部分もあるので、そこはもう開き直って、分かりやすいファンタジーにしているところもあります。でも『THE MOMOTAROH』に登場させた、アグラ・ツイストなどは、ぼくが学生のころに実際に使っていた技ですし、本当っぽくみえて実は嘘だったり、嘘っぽく見えるけど実は本当みたいな、虚実ないまぜみたいなのが好きですね。ときには「それはやりすぎだろう」と言われてしまうこともありますが、それも含めて楽しいです。
「脳内プロレス」と自分では呼んでいるのですが、想像のなかで、好き勝手に戦わせています。決まった技の瞬間を考えて、それを逆再生するみたいな感じで、そこまでのルートを辿るというか。フィルムを逆回転させるようなイメージで、タックルをかわして、左側に飛び、右手を引っかければこの技に行くなとか、そういうのを考えます。この体型だと、この技はなかなか掛けづらいな、とか。格闘技専門誌に掲載されている技は一通り目を通して、「これは無理、こっちはちょっと地味だな。これは見栄えがいいな」とか。それを自分なりにアレンジして作品のなかで使ったりしています。
『真島クンすっとばす!』を連載していたときは、ブラジリアン柔術自体の知名度が低くて、元タイガーマスクの佐山(聡)さんのシューティングのエッセンスが強かったと思います。そもそも『真島クンすっとばす!』の企画自体、柔術を学んでいる少年の話ではなく、総合格闘技を目指している男の子が部活として、個人戦や団体戦を戦っていくという話だったんです。編集部に見せたとき「いやいや関節技とかよく分からないし、子どもにそういうのはよく伝わらないから」と言われて却下されて。じゃあもう少し分かりやすくしよう、ということで柔術という言葉を出してきたんです。その後、K-1などの格闘技ブームの際に、ブラジリアン柔術が世界中に浸透していって、「柔術」という言葉もずいぶん一般的になっていきましたが……。当時の「柔術」にはオリエンタルだけどちょっと摩訶不思議な印象のある言葉として認識されていたと思います。
格闘技にミステリーの要素を加えた 『真島、爆ぜる!!』
──現在、連載中の『真島、爆ぜる!!』についてお伺いします。作品制作のきっかけはどういったところからだったのでしょうか?
にわの: さきほど申し上げたように『真島クンすっとばす!』は、掲載誌が少年誌ということもあって、ストレートに世界最強を目指す高校生のお話だったんです。空手、柔道、ボクシング、ムエタイなど、さまざまなジャンルの格闘家と主人公・真島零が自身の陣内流柔術の技を駆使して最強を目指すという。でも、強さを目指して描いていると、強さのインフレというか、後出しジャンケン的な感じで、物語が進むにつれて強いキャラクターを登場させないといけない。いまの感覚だと、さすがにこれが辛くて『真島、爆ぜる!!』では、ホラーまではいかないのですが、ミステリー的な要素を交えながら描いています。ある意味挑戦的な作品ですよね、格闘技とミステリーを融合させているので。
記憶喪失のキャラクターはいまどき目新しくもないのですが、『ボーン・アイデンティティー』などを観たときから、一度描いてみたいと思っていました。夢の中で謎のキャラクターが現れて、意味不明なヒントを小出しにしつつ、あとになってその本当の意味が分かる、そういったものを描いてみたかった。散りばめたピースが、カチっとハマる瞬間は描いていてもやっぱり楽しいです。物語的には、まだまだ散りばめた要素が回収できていないので、それをうまく回収したいと思っています。
──『真島クンすっとばす!』と描き方の違いのようなものはありますか?
にわの:陣内流の技の面白さや、さまざまなジャンルの格闘技の持つ面白さを引き出しつつ戦わせるのは、描いていて楽しいです。特に『真島、爆ぜる!!』では、師弟愛や真島を取り巻く周りの人物との絆などを通して、真島自身も強くなる、といった感じで描いています。
真島零のキャラクターの根本は『THE MOMOTAROH』に登場していたウラシマ・まりんだったりします。わがままでスケベで、わりとストレートなキャラクター。このキャラクターを練り直して、真島を生み出した感じです。だいたい主人公として描くに当たって、作者自身が使いこなせるキャラクターは、割と何パターンかに限られていると思うんです。ぼくは割と癖のあるキャラクターを描きたいと思っているのですが、だいたいそういうキャラクターを主人公に据えるとコケることが多いです(笑)。そういうのはサブキャラくらいに止めておいた方が良い。
常々主人公のタイプには巻き込み型と巻き込まれ型があると思っていて。『THE MOMOTAROH』のように主人公主導で周りを巻き込みながら物語を動かすのが巻き込み型ですが、だいたいヒーローものは、巻き込まれ型が多いと思うんです。『仮面ライダー』しかり、『ウルトラマン』しかり。気が付いたらそうなっていたという感じではありますが、前者が『真島クンすっとばす!』で後者が『真島、爆ぜる!!』になります。周りのキャラクターが立ってくると、主人公キャラをある程度フォローできるので、そういう意味では物語がうまく回っていると思います。もっとも、自分自身が描きたいのは、何を考えているか分からないキャラクター──読者のみなさんが「このキャラクター、どう主人公に絡むんだ」「いったい、こいつは何をしでかすんだ」と思ってもらえるようなキャラクターを描きたいと思っています。
漫画は読まれてナンボ まずたくさんの人に読んでもらう
──主人公キャラクターのお話しがありましたが、読者の反応や反響はどのくらい気にされるものでしょうか?
にわの: 少年誌で、それこそ「週刊少年ジャンプ」で連載していたころは、読者アンケートありきでの作品作りを行っていました。嫌らしい話ですが、人気が高かったときと、低かったときを比べて、その理由を分析するわけです。たとえば、ピンチに陥った主人公をライバルキャラが助けに来ると、そういう回は人気がポンって上がるんです。そういったデータを細かくとって、どういう展開にすれば読者にウケるのかを分析していく。
でも、そればかりやっていると、似たような作品しか生まれなくなるし、だんだん読者も飽きてくるので、諸刃の剣なところもあります。ぼくはあまり順位とか気にせずに描いていたので、ほとんど関係なかったのですが……。正直、読者の反応をいちいち気にしていても仕方ないので、最終的には自分が描きたいものを描くという感じです。いまはSNSやtwitterなど、読者の反応を見る機会が多いのですが、あまりマイナスな評価を見ても、立ち直れなくなるだけなので寝たら忘れるようにしています(笑)。
──漫画家生活も来年30年目を迎えるわけですが、何か変化はありますか?
にわの: 若い頃は結構無理して、寝ないで描いていたこともあったのですが、いまはもうさすがに寝なきゃ描けないです。きちんと睡眠を取らないと。真島のキャラクターを描いていても、いつの間にか違うキャラクターになっていたりとか、普通にあるので。まったく新しいキャラクターが生まれていたりとか、それは、それで面白いんですけどね(笑)。
キャラクターにアクセントをつけようと思って付けたハズの傷の位置やホクロの位置なんかも、長年仕事していても忘れてしまったり。はっきり言って、自分でできる範囲の分でしか頑張れない。頑張れないというか、頑張らないです(笑)。スタッフにお願いできるところはお願いする。
逆に、ネームにかける時間を増やすようにしています。仕事の早い作家さんは一通り下書きをしてからペン入れに入るので、全体が把握できる。「ここは演出的に大ゴマだよな」とか、「このセリフは要らない」とか判断できるのですが、週刊ペースで仕事をしていると、なかなかそういう俯瞰で見る時間がなくて。下絵を入れたらすぐにスタッフに渡す、みたいな感じなので、目先の展開しか追えない。なので、コミックスのときにだいぶ手を入れています。
(単行本で)直さない人は全く直さないので作家さんによるとは思うのですが、昨日『GTO』の藤沢(とおる)先生と一緒に飲んでいたときに、藤沢さんに聞いたら「(単行本で)俺も直す」と言っていました。全体を通してパーっと読んで、「あ、ここは大ゴマだよな」と思ったら、大ゴマに変更したりして。雑誌連載時の1話20数ページと、単行本で200ページ近い分量を読むときとでは、読み手のリズムもだいぶ変わるので。そういうときに「ああ、これはちょっとセリフ多すぎ」とか、「ここはやっぱり大ゴマにしよう」とかはきちんと拾って直すようにしています。
──最後にこれから漫画家を目指す方にメッセージをいただけますと幸いです。
にわの: 漫画には「こう描くべし」というルールはないので、自分が好きなときに、これ描きたいと思うものがあれば、すぐに原稿に描いてほしいですね。いまだと、タブレットにペンなのかもしれませんけど。間を開けてしまうと、そのときの熱を失ってしまうので、とりあえず描いて、後で見て「えらい恥ずかしいの描いてしまったな」と思うことも大切だと思います。
そのとき描きたいと思ったものを描かないと、次のステップに進めないと思います。デッサンや物語の構成、キャラクター作りといった部分は、最初は下手でも描いていくうちにどんどん洗練されて上手くなっていきます。そのうえで、いろんな人に見せて、感想をもらう。漫画は人が読んでなんぼなところがあるので、ボロクソに言われたとしても甘んじて受け止める。ギャグ漫画の場合などでは、10人いたら10人とも笑うことはまずありません。プロ野球の選手でも10回打席に立って、3回ヒットが打てれば名選手なので、10人に見せて3人笑ったらもう大成功です。ぼくも全然技術がなかったのですが、(漫画を)描きたいとう欲求だけで始めたものなので。ぜひ、多くの人に(自分の作品を)見せて、漫画家を目指してほしいですね。
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