くさか里樹先生インタビュー
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まんが甲子園を維持してきたのは、地元高校生たちのチカラだというくさか先生。交流会でも気軽に声をかけていました。
『ケイリン野郎』や『ヘルプマン』など 高知に暮らしながら10年以上の連載を続けてきた 女性まんが家、くさか里樹先生。 まんが甲子園や黒潮マンガ大賞の審査員など、 まんが王国・土佐を支える活動に数多く協力してくださっています。 そんな彼女に、まんが甲子園や高知の漫画環境について伺いました。
体育会系の血が騒いだ入場式
くさか里樹先生はまんが甲子園の審査員を2005年の第14回大会から担当しています。以前は、「まんがは競うものではないし、行政がまんがを応援する形も少し違う気がしていました。この業界はへそ曲がりが多く、私も斜めから見ていました。」と笑いながら振り返ります。しかし大会当日、ライティングと音楽に包まれた、高校生ペン児たちの入場行進を見た瞬間に「全国から高知を目指して来てくれたんだと思ったら胸が熱くなりました。」と、血が騒いだといいます。高校生たちの会場に溢れる、まんがが好き、描きたいという「熱量」に、毎年圧倒されているようです。
まんが甲子園は高校生たちに、どういう影響を与えているのでしょう?くさか先生は、県外の大会に応募してみようという、自分の技量を試す気持ちが大きいといいます。
「テーマを決めて競うこと、時間内に作品を描かなくてはいけないこと、この緊張感は大きなプレッシャーになると思います。反面、この緊張感はものすごく気持ちが良いもの(笑)。漫画家の仕事も同じですが、始めるときは恐ろしいですが、いざやってみると、チャレンジする気持ち良さ、追いつめられる心地良さがあります。大会を通じて緊張感やプレッシャーがかかる体験は、高校生たちの大きな財産になると思いますね。
また、高校時代に知らない土地(高知県)に行くことも大きな収穫です。これから社会に向けて飛び立つ前に、いろいろなことを見て、知り、どんどん吸収できますから。そして全国の方と会場でも、交流会でも出会いがあります。これは人生の何か一つ殻を破ることになりますよね。」と話します。
持ち込んだ作品がダメだと言われても、人間を否定されるわけではないというくさか先生。自主出版やイラストなど、漫画を活かし楽しむ方法はいくらでもあるので、とにかく描き続けてほしいとおっしゃっていました。
熱量が伝わる作品
国内外の映画やドラマ、アニメなど、いろいろなものを見られる環境にあり、まんが甲子園に応募された作品の蓄積など、全部が土台になっているため、くさか先生は、高校生たちの技術は確実に進歩していると評価。昔よりイマジネーションの種があり、俯瞰や下からあおった構図など、演出の仕方が多岐にわたり、バリエーションをもっているといいます。そんな彼女が、まんが甲子園の予選や本選で作品を審査するうえで、どういったポイントを見ているか、教えていただきました。
「まず予選で今回の大会だと357校の中から30校を選びますが、会場全体にあふれている“気”があり、あの場で見ることができるのは漫画家としておいしいです(笑)。その中で、まずは丁寧に描いているか、そして読後感がどうかはポイントにします。アイデアは似通ったものがありますから、その中からどれだけブラッシュアップ出来ているか、無駄が上手に削がれているか、もう一段上のテクニックもほしいですし、読者のことを考える意味では、きちんと仕上げるということは大事です。
そして、やはり勢いのあるもの、ナンセンスな一発ネタが大好きです(笑)。作品にはそれぞれに良さが必ずありますが、作品が訴える熱量が大事ですよね。例えば出版社に持ち込んだとき、まだ下手くそでも『描くぞ、やるぞ、漫画家になるぞ』いう熱量が出ている作品が、編集者の目にも止まります。あまり姑息に『こうしたらウケる』というものは熱量が伝わってこない。真っ直ぐなものは必ず絵柄やセリフの一つにも出てくると思います。」
自分が受けた体験を次世代へ
高知県は「まんが王国・土佐」の名に相応しいほど、日本を代表する多くの漫画家を輩出しています。また、くさか先生をはじめ、県内に住みながら連載を持っているプロの漫画家や、地元で活動する漫画グループ、新たな漫画家を発掘する出版社、専門学校のマンガ科など、高知の漫画環境は恵まれたものといえるでしょう。くさか先生は『土佐の一本釣り』の作者、故青柳裕介先生が主宰していた『くじらの鼻歌』に投稿し、本人からもアドバイスをもらった実体験と、「そこに本物のプロがいて、肌でそれを感じられました。自分が進もうとしている世界を、具体的にイメージできたことが大きかったです。」と振り返ります。そういう応援を受けてきたからこそ、まんが甲子園やまんが教室等でも協力していきたいといいます。
そして、これからプロの漫画家を目指す人へは、ひたすら漫画を描いて仕上げまで持って行くこと、そして出版社へ原稿を持ち込むことを薦めています。
「作品に仕上げることは相当大変で、ストーリーや画力などあれこれと深く考えていたらきりがないです。アマチュアの間は勢いで、ひたすら描いていくのがいいです。出版社にドキドキしながら自分で電話してアポイントを取ることも思い出になります。夢に向かって歩いているという実感が持てるじゃないですか(笑)。そして、夜行バスに乗って出版社に持ち込んだらいいです。出版社は新しい才能を求めていますし、その場でアドバイスもしてもらえます。とにかく、作品を描いて見てもらうことです。」
例えアマチュアも、プロになったとしても、「描き続ける情熱こそがすべて」というくさか先生の言葉からは、漫画家を目指す若者たちへの愛情が溢れています。まんが王国を支えてくれる彼女のような存在がいることの大きさを、改めて実感したインタビューになりました。
くさか里樹先生プロフィール
高知県生まれ。追手前高校卒業。
1980年に『別冊少女コミック』(小学館)の『ひとつちがいのさしすせそ』でデビュー。代表作として、18年続いた『ケイリン野郎』『ケイリン野郎GP』(Judy 小学館)、『ヘルプマン!』(イブニング 講談社)『ヘルプマン!!』(朝日新聞出版)など。『ヘルプマン!』で2011年度第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞。
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