【大会議】料理漫画の革命児!小川悦司〜「中華一番!」誕生のヒミツ〜レポート

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更新日 : 2017/04/10

料理漫画の革命児!小川悦司〜「中華一番!」誕生のヒミツ〜

料理漫画の革命児!小川悦司〜「中華一番!」誕生のヒミツ〜

 

バトル系料理漫画で大人気を博しアニメ化もされた「中華一番!」。その誕生から料理秘話、キャラクターに託された思いなどを、作者の小川悦司先生が、当時の編集担当者だった都丸尚史さんと一緒にお話してくださいました。

 

■出演者/小川悦司先生

    都丸尚史(株式会社講談社 文芸第三出版部)

    大藤彩美(フリーアナウンサー)

 

▼お二人の来高歴やそのときの高知の思い出とは

大藤彩美(以下、大藤):小川先生は、高知は初めてでいらっしゃいますか。

小川悦司(以下、小川):二十数年前に一度来たきりで今回2回目です。高知と言えば坂本龍馬。坂本龍馬の大ファンとしては、わずか2回というのは非常に許されざる少なさなんですが、今回の「まんが王国・土佐」に呼んでいただいてうれしく思っています。

大藤:こちらこそありがとうございます。高知の新たな発見はありましたか。

小川:前回旅したときも地元の方がおおらかで気持ちのいい場所だと思いました。昨日はホテルに到着して史跡を見て回ったんですが、迷って歩いているだけで声をかけてくださる方が多くて。例えば、武市半平太の道場跡はどこかなと思って探して歩いていたら、「武市半平太の道場跡はこっち」とおじさんが声をかけてくれて。まるでテレパシーですよね(笑)すごく親切で感動しました。

都丸尚史(以下、都丸):僕も久しぶりに高知に来ました。前回来たのが15年くらい前で、そのときは別の漫画の取材で四万十川をさかのぼりました。本当にきれいな川で、カヌーで川下りをして沈下橋からぽーんと水に飛び込んだり、取材で来たのか遊びに来たのかわからない感じで。高知の自然は非常に楽しくて、やっぱり素晴らしいなと思いました。夜はしっかりおいしいお酒を飲んで、漫画家さんと騒ぐという。あれからなかなか来られませんでしたが、今回機会をいただけたことを本当にうれしく思っています。

大藤:お二人がおっしゃったように、高知と言えば坂本龍馬、お酒、カツオなどの食。豊かな自然に囲まれた土地なんですよね。4日前の高知新聞に「幕末の偉人で会ってみたい人」という興味深いアンケート調査がありまして、坂本龍馬が断トツナンバーワンでした。いかがですか、やはりという感じですか。

小川:そうですね、坂本龍馬は、長州藩とか薩摩藩とか、そういう枠にとらわれないユニバーサルな人気があるんだなというのを実感しますね。

大藤:先週土曜日の3月4日から高知では「幕末維新博」というのが2年間にわたって開幕しました。一大イベントなんですがご存じでしたか。あっ、ガイドブックをお持ちですね。この中でも「高知城歴史博物館」が開館しました。こちらは行かれましたか?

小川:明日行こうと思っています。

都丸:はい、お酒ばっかり飲まずに、行ってぜひ勉強したいと思っています。

大藤:高知はお酒の聖地です。お二人はよく召し上がりますか。

小川:私はすごく弱いのでたしなむ程度。都丸さんはすごく強いです。

大藤:何を飲まれるんですか?

都丸:日本酒やハイボール、ビールにホッピーも飲みますし、焼酎もワインも何でも飲んじゃいます。

大藤:今、高知市の中心街を宴会場に見立てた、酒文化を楽しむ「土佐のおきゃく」が開催中です。お座敷遊びの体験や鳴子踊りも披露されますので堪能していただきたいと思います。

都丸:いい時期に来ました(笑)



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▼『中華一番!』の誕生秘話や連載スタート時の苦労。

大藤:さあそれでは、本題にまいりましょう。会場には熱烈なファンの方もいらっしゃるでしょう、『中華一番!』。ご存じない方のために、改めてどんな漫画なのかお二人に伺いたいと思います。

小川:講談社の週刊マガジンという雑誌で始まったのが1995年なので20年以上前になります。終わったのが1999年で18年くらい経っています。19世紀の中国を舞台にした、中華料理がテーマの料理漫画で、清王朝の末期に四川省で生まれた天才料理少年が中国全土を旅しながらいろんなライバルと戦ったり、人助けをしたり、友情を育んだりして、料理で人を幸せにすることをテーマにした物語です。

都丸:当時週刊少年マガジンは非常に勢いがあって部数がとても伸びていて、「ジャンプに追いつけ、追い越せ」と頑張っていた時代に始まった作品です。当時マガジンは、『将太の寿司』というお寿司の料理漫画をやっていて、そのときに編集長が「料理漫画は人気もあるし部数を伸ばせるから、もう一本やるのだ!」という話になり、それで中華料理をテーマにするのはどうだろう、というところから企画が始まったんです。「じゃあどなたに描いていただくのがいいだろうか」となって、まったく新人の小川さんに白羽の矢が立ち、小川さんが大変な漫画の世界に踏み込んできたという作品です。

大藤:そういういきさつがあって中華料理を題材に描かれたんですね。日頃、よく召し上がるんですか。

小川:そうですね、中華料理は料理の中で一番好きですね。値段的にもリーズナブルな感じで満足感の高い料理なのでよく食べます。

都丸:新人の小川さんに依頼したのは、中国を舞台にした漫画にした方が面白いんじゃないかな、という狙いがありまして。小川さんが新人の時に描かれたもので、中国を舞台にした読み切りとかネーム(漫画の絵コンテ)があったので、さっそく小川さんに会いに行き承諾していただきました。

小川:もともと非常に中国に興味がありまして、ジャッキー・チェンやブルース・リーにはじまり、ユーリン・チェンの「少林寺」だとか、カンフー映画で少年時代を過ごしました。そういうものに影響を受けた時代で、大人になってから「水滸伝」や「三国志」を読む中で、ますます中国に興味を深めていきまして、中国を舞台に何か描けないかなと思っていたときにちょうどお話をいただいたので、これはぜひやってみたいと思いました。

大藤:それは、すごくいいきっかけになりましたね。そして中華料理というと、みなさんの食卓によく登場するであろう、餃子、麻婆豆腐、チャーハンももちろん漫画の中に登場してきます。実はこちら、インターネット調査の中で人気メニュートップスリーなんですよ。よく作られますか、奥さまとか。

小川:そうですね、妻が作ることもあります。ただ、私自身は料理が不得手なので。でもよく食べます(笑)当時はラーメンの食べ歩きもすごくやっていたり、漫画に登場する場合、作れるものはヘタクソながら作ってみたり。そういうことはやっていました。

都丸:実は小川先生はいわゆるアシスタント経験がなくて、いきなり連載デビューというかなり異例のパターンだったんです。なので、原稿を描くペースを最初はなかなかつかめなかったんですよ。特に連載の1話目がものすごいボリュームだったんです。

小川:そうでした、80ページくらいありました。「前後編に分けられないかな」と編集さんを通して編集長にも掛け合ってみたんですが、「絶対駄目だ!」と。「この漫画の鋳型はこうなんだ、というのをずばっと見せるために前後編分けずに、ちゃんと一話読み切りでボリューム感あるかたちでかまわないから」とアドバイスをいただきました。

都丸:だいたい週刊連載って、18ページから20ページなんですね。80ページというと4週分なんですよ。なおかつ小川さんもそれほど慣れてらっしゃらないから1話目を描くだけでも3カ月はかかって、それで始まって。でもその80ページは連載が始まるとたった1週間で消費されて、2話目、3話目と来ちゃうので、たちまち時間のストックがなくなってしまいました。追いまくられると料理を作っているどころじゃない(笑)

大藤:料理のレシピなどはどういうふうに考案されたんですか。

小川:料理漫画は今でこそ巨大ジャンルなんですが、当時の漫画界ではまだマイナーなジャンルだったので、料理漫画を目指して漫画家になったという感じではなかった・・・。

大藤:ここで、時刻がそろそろ、午後2時46分になりますので、6年前の東日本大震災で犠牲となった方々へ1分間の黙祷を捧げたいと思います。それでは黙祷。(会場全体で黙祷)

それでは、お話の続きをお願いします。

小川:はい、そういった感じで料理漫画を描くというイメージはないまま漫画の仕事に入ってしまったので、まず一から勉強しないといけないということで、最初の担当さんから朝日の料理百科のものすごく分厚い本を2冊渡されて、「1週間で読破してこい」と言われました。当時はアルバイトしながら描いていたので、徹夜して読みました。

都丸:僕じゃないですよ、僕の前の一番最初の担当者です(笑)

小川:さっきの餃子、麻婆豆腐、チャーハン以外にも、中国には日本人が知らない料理がこんなにいっぱいあるんだと目を奪われました。そのせいもあって連載1話目の最初のバーションは、魚団子のすり身にお茶の葉を散らしたようなものを出したところ、料理が地味すぎると駄目だしが入って、「麻婆豆腐でやり直せ」という指令が下りて1話目は麻婆豆腐になりました。

大藤:そうでしたね、主人公のマオが戦って見事勝利して料理長になるという。はじめの課題が麻婆豆腐でした。そういういきさつがあったんですね。

都丸:小川先生もおっしゃいましたけど、料理漫画は今ものすごく増えていて細分化が進んでいるんです。ジャンルもどんどん細かくなっていって。でも、二十数年前にわれわれが始めたときはまだ新しいジャンルだったんですね。当時の週マガの鉄則は、「食べるものはメジャーな料理にしなさい」で、メジャーな料理じゃないと読者に味がわからないと。逆に言うと、チャーハンと餃子、それからラーメン以外のものは描けない縛りがあったんです。とはいえ、連載を重ねていくと幅が出てきて、小川先生もわれわれも中華料理の勉強をしてきてネタの範囲が広がるんですけど、広がりすぎると人気が落ちちゃうところもあって、「やっぱり原点にもどらなきゃなあ」とか、この辺の塩梅が難しいというのがありました。

 

▼限界まで広げて描いた、味を伝えるリアクション

大藤:オリジナル料理も出てきますが、それはどうやって作っていったんですか。

小川:1話ごとにアンケートの結果が出てくるので、反応を見ながら打ち合わせをして「次はこんなのができるんじゃないか」といろんなものを毎回ひねり出していたという感じです。

都丸:漫画の作り方はいろいろあるんですけど、料理漫画の場合はネタですね。どういう題材でいくか。「こういう調理法があります」「こうするとおいしくなります」というネタを取材したり、本を読んでそこから物語を膨らませていくというのが一つ。もう一つは漫画は絵で表現するものなので、「こんなすごい絵があったらどうですか、小川さん!」みたいなビジュアルイメージですね。例えば「コメットチャーハン」とか(笑)。「チャーハンが彗星のように飛んだら面白いですねー」って。じゃどうするの?って話なんですけど。そうやってビジュアルイメージから逆算して作るとか、手立てはいろいろあります。回を重ねていくごとに常に研究していったという感じでしょうか。

小川:少年漫画は派手さが求められますので、実際にできるものというリアリティーに縛られると面白さが犠牲になる可能性があり、むしろ怖くなってしまって。それで逆に最終的には万里の長城を転がるオムライスのような(笑)、中華料理の伝統を一切踏まえないようなかたちにまで奇妙な進化を遂げた漫画だったんです。

大藤:確かにインパクトはありますよね。

都丸:少年漫画においてそのインパクトはとっても重要なんですよ。そこから小川さんが編み出した方法論というのが、リアクションをしっかり描くということです。

小川:顔芸もですよね。セリフでどんなに言葉を尽くして語っても、正確な味の質自体は結局伝わらない、ということに途中で気づいてしまった(笑)ただ味がどのくらいおいしいかは絵の派手さによって伝えられるんじゃないかと思いまして。食べた人の面白い顔だとか、食べた人の頭の中にこんな風景が広がってもいいんじゃないか、ということを限界まで広げて表現してみたんです。

大藤:それが『中華一番!』の世界観にも出ていますね。(例えば)料理の描写でおいしく見せるために擬音語の「ほわーん」とか「ほくほく」とかソフトなタッチで描かれると思うんですが、先生の場合は擬音語が「ゴゴゴゴゴー」とか「うわー」なんですよね。そこにも驚いて、これでおいしく見せているのかと思いました。料理が力強く描かれていますね。それもそういういきさつなんですね。

小川:当時、週刊少年マガジンで同時に連載されていた寺沢大介先生の『将太の寿司』はこつこつとちゃんとした成長を遂げる漫画だったので、そことの差別化を求めるということで派手さを求められたこともあって。あと、元マガジン編集者の方の前であれなんですけど、ジャンプ世代なんで(笑)

都丸:僕もジャンプ世代ですよ(笑)。僕ジャンプ大好きなんですけど、マガジンの編集部に行って「打倒ジャンプ!」と頑張っていた編集者なんで。

小川:高校時代にはやっていた『北斗の拳』に一番影響を受けていて、それが強く出ている部分もあって、あんなに筋肉質の料理人がたくさん出てくるんですよ。

大藤:そうなんですよ、料理人なのに筋肉質のムキムキで身体能力も非常に高いという人が出てくるんですよね。それから、当時の中国が舞台ということで、中国の方の衣装や髪型などの描写に対しても想像を膨らませながら描かれているんですか。

小川:清王朝の時代というのが、満州民族が中国大陸を支配していた時代なので、基本的には国策として髪型は弁髪、前髪は全部剃って後ろで束ねるという。あの髪型は日本のちょんまげに匹敵するような究極な髪型で、あれはあれでかっこいいんですが、主人公の髪型にすると若干奇妙な感じになると思ったんです。そこで主人公まわりはあまりとらわれずに描いていたんですが、キャラクターのバリエーションが無くなってきたので、「こうでもいいかな」とデザインの範囲が広がっていきました。結果的には実際に調べたものや当時の文化を踏まえたものだけにはとらわれないような、無国籍な感じの漫画になっていったと思います。

大藤:ハリウッド(映画)も参考にされたそうですね。

小川:はい。『中華一番!』の続編となる『真・中華一番!』は、より強いライバルが出てきて無茶苦茶やる漫画になっていきました。「鋼棍のシェル」だとか「七星刀のレオン」というキャラクターとかはハリウッド映画の雰囲気の影響を受けています。

都丸:そういう意味では、中国という枠を少し外して取り入れたということがありますよね。

小川:そうですね、あまり特定するとイメージがつきすぎてしまうのかなと思って少し外しにかかった感じはありますね。

大藤:固定概念にとらわれずにアイデアを出していった。それでああいった描写、キャラクターが誕生したということなんですね。主人公のマオがとてもかわいらしくで、すごくたくましいといいますか、まだ10代でしょう、すごいですよね。

都丸:少年漫画の主人公って、精神的にはすごい大人なんですよね。

大藤:すご過ぎますよ、13歳で料理長になって打ち勝っていくというのは涙ものです。お二人の好きなキャラクターは誰ですか。

小川:主人公はもちろんですけど、主人公は相対的な存在というか、まわりが勝手なことをやっている中でどういう位置を占めるかが大事なので、むしろまわりのキャラクターに自由に自分の思い入れを託せます。例えばサブキャラにシロウというちっちゃい男の子がいるんですが、マオが背負っていたものをシロウに半分くらい肩代わりさせることができたキャラで、すごく好きでした。それと主人公の師匠のチョウユという変なキャラクターがいるんですが、主人公とは違う思いをいろいろ乗せられたので好きでした。

都丸:マオというのは少年漫画のお手本みたいな男の子で、向上心が強くて純粋で、すごく好かれやすいキャラクターなんです。そういう主人公をてらいなく描くのはなかなかできないことで、それが描けるのが小川さんの強みだと思うんです。一方で、小川さんの好きなキャラクターは一癖あって、そういうのを描くのがまたうまいんです。僕が個人的に好きなのはメイリィというヒロインの女の子。編集者としてはメイリィをもっといかしたかったという反省もあります。マオくんがとてもいい子なんで、メイリィとの間にあまり進展がないと(笑)。そういう意味では「もっと描けたのになぁ」感がありましたね。

大藤:私もメイリィが好きなんです。アニメ化された方ではマオと一緒に修行に同行していますよね。マオと一緒に成長していく姿がほほえましくてかわいらしくて。メイリィはマオのことが好きなので、頑張ってほしいと協力する姿がけなげですごく好きなんです。

小川:あー、嬉しいです。


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▼冒険テイストを取り入れた料理漫画の先駆け的存在

大藤:他にもストーリーの構成で、はじめはマオの成長を描く作品だったのですが、途中から修行の旅に出て冒険漫画のようになっていきました。そこにはわけがあるんですか。

小川:そうですね、やはり、同時期に連載されていた『将太の寿司』とどう差をつけるかということで、派手さを求めたからですね。旅をしていくと舞台も次々変わっていろんなチャンスも生まれやすいと思いました。少年漫画には「大声出した漫画が勝ち!」みたいなところがありますので、そっちへシフトしていった感じですね。

都丸:『真・中華一番!』ですと裏料理界というのが出てきまして、そこの厨師(チュウシ)という料理人たちと戦うという話になった。これ自体は、料理漫画として相当異色な展開だと、今でも言えると思います。さっき小川さんもおっしゃっていましたけど、結局漫画って、その漫画の独特な部分がないと、ライバルである他の連載漫画と競争していく雑誌の中で戦えないというか、読者の印象に残らないんです。『中華一番!』がいまだに読者の皆さんに愛され印象に残っているのは、もちろんアニメなどのメディアミックスのおかげでもあるんですが、『中華一番!』でしか描いてないような部分があるからだと思うんですね。料理漫画の中で冒険テイストを取り入れたおそらく最初の作品なんです。ジャンプでは『トリコ』という冒険テイストの料理漫画も大ヒットしましたけど、『トリコ』よりもずいぶん前にやったというのが大きいと思いますね。

大藤:まさに先駆者と言えますね。

都丸:結果的にですね(笑)。当時は毎週必死で作っていてそんなこと思ってなくて、今ふりかえってえらそうに言っているだけで。偶然です、みたいな(笑)

小川:そうですね。自分がどこにいるかそんなに俯瞰的に見られなくて、必死で目の前の原稿を描いているっている感じでした。

大藤:漫画を通してお二人が伝えたかったメッセージというのは何ですか。

小川:料理漫画というのは、他の少年漫画に比べると「パンチ一発で倒す!」みたいなのではなく、段取りがいるジャンルだと思うんですね。課題を出して審査員をたてて、そして料理を作る。そして審査をしてからどっちがすぐれているか、その理由は何だったか。けっこう段取りを踏んでからじゃないと相手を倒せない。一種煩わしさもありますが、表現は派手でも、限界を突破するための根性だとか、読んだ人が料理の味のかけらでも感じてくれて、幸せになってほしいなという願いを込めて描いていました。

都丸:質問の趣旨からちょっと答えがずれますが、この漫画をやって小川さんが開発した手法は二つあると思うんです。一つは先ほど言ったリアクションです。料理を食べたときのリアクションの面白さというか意外性。これは、ページをめくったときにどんなとんでもないリアクションがあるんだろう、という料理漫画の構造なんですね。これは小川さんが開発したと思っています。今でも小川さんの漫画に期待するのはそういうところだったりします。他の料理漫画でも真似してくれているものが出てきたという意味で、新しい表現方法を作ってくれた。二つ目は、小川さんの料理の描き方が、「なんでこんなにおいしそうなのか」ということ。食材をていねいに書くのはもちろんですが、小川さんの秘密というのは湯気にあると思うんですよ。つまり、料理の「シズル感」を増したという手法なんですね。何がいいかというと、ちょっとウエットな感じが出て、僕のイメージで言うと「料理の色気が増す」という感じがするんですよ。このシズル感というのは料理そのものと、まとわりついている空気感というのかな、それを含めて描くという手法なんですよ。これはたまたまですが、中華料理は火をガッと使うので、もともと料理に湯気がありますから。そういう意味で料理漫画の二つのメソッドを小川さんが打ち立てたなと、僕は勝手に思っています。『中華一番!』をやったことによってできたことなのかなと思います。

小川:あー、うれしいですね。

 

▼アニメが台湾でも放送され、中国では驚きの実写化も!

大藤:この『中華一番!』はアニメ化もされました。どんないきさつですか。

都丸:正直、すごく驚きました。料理漫画をアニメにするという発想が当時あまりなかったので。実は、週刊少年マガジンで寺沢大介先生が前にやっていた『ミスター味っ子』がアニメになっていて、演出がオーバーで面白かったので、その流れでいけるんじゃないかとテレビ局が判断してのゴーサインだと思います。小川先生はアニメになって驚いたことあったんですよね。

小川:主人公のマオの髪の毛の色がブルーになっていて、見た瞬間びっくりしました。

大藤:そうそう、そうなんですよね。

小川:実際動いているアニメとして見てみると、このくらい派手でもありだなと。

都丸:アニメの不思議な効果ですよね。止まっているとあれっ?って思うんですけど、動いているキャラクターを見るとブルーでもぜんぜん悪くないですよね。

大藤:このアニメ、フジテレビ系列で放送期間が1997年4月27日から1998年9月13日まで全52話放送されています。これは原作より多いですね。

都丸:アニメは原作を追い抜いていっちゃったんですよ。それに、けっこう野球中継で放送が流れたんです(笑)。日曜の夜、野球中継があるとどうしても。52話なので通常は一年分なのですが、結果的に一年半放送されたので、ある意味得したなと(笑)。長い期間やっていただいて、またそれで印象に残ったと思います。

大藤:髪の色も含めて、ファンの反応はいかがでしたか。

小川:原作の方が好きだと言ってくれる人の中には、イメージが違うという人もいたんですけど、アニメから入ったという人がけっこう多い作品でもあり、それはそれと徐々になっていったみたいです。当時はテレビのゴールデンの時間帯にアニメがいっぱいあった時代で、日曜日の夜7時半といういい時間帯にやっていただいたのですごく反響が大きくてそれはうれしかったですね。

大藤:しかも、台湾では爆発的な人気番組になったと聞いています。

小川:裏事情を聞いた話だと、台湾とか中国の方が、アニメでこれをやっちゃあいけないという規制が厳しいらしくて、日本のアニメで放送されるのは限られているようなんです。『中華一番!』のアニメは規制をクリアしているそうで、繰り返し再放送もされていて現在でもやっているらしいんです。世代を超えて見てもらったらしいです。

都丸:この前は台湾のイベントに行かれていましたよね。

小川:そうですね、あれは、『中華一番!』で作られた料理を、台南の食品加工会社さんが再現して売り出したということで、PRイベントに行っていました。

大藤:そして2005年には、舞台になった中国で実写化もされたそうで、これは興味ありますね(笑)。どんな俳優さんをキャストしているんでしょう。身体能力の高い演技をするのは難しいんじゃないでしょうか。

小川:中国ならではのワイヤーアクションやCG技術などいろいろ駆使していましたね。『中華一番!』の実写化は、けっこうハードルが高いと思うんですが、無茶して実写化していただいて、あれはあれですごく面白かったです。例えば、「餃子兄弟」の弟は、ちゃんとムキムキの男性が演じてくれて。

大藤:そうですよ!弟さんがムキムキじゃないと回せないですよね、なんせ餃子を(笑)。面白い貴重なこぼれ話をありがとうございます。

 

▼多彩な小川ワールド『幕末双雷伝』『すしいち!』

大藤:そして小川先生の作品には『中華一番!』の他にも、坂本龍馬が登場する『幕末双雷伝』があります。こちらはどういった内容でしょうか。

小川:『幕末双雷伝』は、坂本龍馬が描きたくて都丸さんに無理を言って描かせていただいたに近い感じです。僕は幕末が大好きで、昔から描きたいなと思っていたので、この前にやっていた漫画『フードファイター双雷伝』のスピンオフとして、中国から日本に渡ってきた主人公が幕末の偉人たちと会いながら、中国の師匠から授かった使命を果たしていくという漫画になりました。高杉晋作や、坂本龍馬、沖田総司がメインだったんですけど、中岡慎太郎や大久保利通なども登場させてさらにディープなところまで描きました。

都丸;小川さんの趣味が全開になっている幕末の漫画です(笑)

大藤:そして歴史上の実在人物だけでなく、主人公は少年という設定です。

小川:幕末ファンは多いながらも、読者としてはハードルがちょっと高いというか、入りづらいというのを避けるために架空の主人公にしてみました。その少年から見た明治維新はどういうものだったのか、というのを客観的に想像しながら。でもやっぱり趣味ですね。

大藤:この時代の偉人、特に先生が尊敬する坂本龍馬、高杉晋作への愛が伝わってきました。坂本龍馬の魅力はどこでしょうか。

小川:坂本龍馬が実際はどういう人物だったかは正確には知りようがないんですけど、みんながよく知っている坂本龍馬のイメージと僕も一緒だと思います。いろんな魅力があって一言では言いづらいんですが、あえて言うと「型破りのかっこよさ」。封建制度の時代にその枠を超えた発想を持てたという、それも奇跡的な発想力。ああいう考え方が何でできたんだろうという知的好奇心が刺激される人です。そこにあの風貌やキャラクター。しゃべり方ひとつをとってもそうですし、袴にブーツやピストル、ちぢれっ毛、背がすごい高かったりとか。それでいてちょっと泣けるという、日本人にとって完全無欠のヒーローというところですね。

大藤:だから今でも全国的に人気が高いんですね。そして女性にもモテるという噂がありますから。さすがお好きなだけあって詳しいですね。

小川:いや、ぜんぜん、詳しいというわけではないんですが、好きというか、愛はあふれています。

大藤:そして、先生は現在、月刊コミック乱ツインズでも『すしいち!』が連載中ですね、どんな内容なんでしょうか。

小川:これも幕末が舞台の漫画で、テーマは江戸前のにぎり寿司。いろんな説があるんですが、華屋与兵衛という人が江戸前のにぎり寿司を開発してから50年後のイメージで描いているんです。調べてみると当時、そんなに寿司の種類って多くなかったり、おにぎりくらいデカかったり、いろんな制約があるので難しいなと思ったのですが、『中華一番!』を描いた頃のようにギリギリを攻めてみようと思いまして。のちに消えたかもしれないけれど、これぐらいの寿司は当時あっても不思議じゃないと思って、枠をちょっとゆるめて描いてみようと思いました。寿司の誕生とどうやって広まっていったのかを、自分なりに掘り下げて描いてみた作品です。それから意外と江戸時代の身分制度と料理の相性がいいというか、料理のほわんとしたところに身分制度の制約が入ることでけっこうな緊張感が出たりするので、それをちょっと大げさに描いています。

都丸:これはリイド社さんという他社さまの作品なんですが、もう、小川さんのいいところ取りなんですよ(笑)。お寿司もすごくおいしそうに描かれていますし、おいしさの表現も素晴らしい。時代も幕末というか江戸時代末期なので、小川さんの描きたいところ。僕なんかは偉人がもっと出てきてほしいと思いますけど。

小川:偉人を描き過ぎちゃった反省点を踏まえて、なるべく偉人を描かないようにしています。

都丸:出しましょうよ(笑)。素晴らしく面白いので。他社さまの作品ですけどぜひ読んでいただきたいと思います。

小川:ありがとうございます。

大藤:このお寿司、「奇跡の寿司」と言われていますよね。食べると幸せな人生が訪れるという設定で。こんなお寿司食べてみたいですよ。食べたら幸せになるんですから。

小川:1話完結なので、ゲストキャラが毎回いるんですが、そのゲストキャラの人生の転機がちょうど、主人公の鯛介くんが握ったお寿司で訪れるように描いているんです。描いているうちに自分の中にも毎回幸せな奇跡が起こるような感じがあるので、正直、ネタが少なくてきついなと思いつつも、毎回そこを超える楽しさがあります。

大藤:私も食べることが大好きで、おいしいものを食べると幸せな気持ちになりますよね、元気をもらえるというか。私の場合もっぱら甘いものですが(笑)。読んでいる方にも、読んで幸せになってもらいたいですね。

都丸:第7巻があさって発売ですよ!

小川:『すしいち!』の最新刊の第7巻があさって3月13日に発売になります。ぜひともよろしくお願いいたします。

都丸:あとでサイン会もございますので。

大藤:そうですね、30分間サイン会を行いますので。ぜひみなさん行っていただきたいと思います。

都丸:他社さまの新刊を宣伝(笑)

大藤:お寿司好きはもちろん、グルメ漫画好きの方にもおすすめの作品となっております。ぜひみなさんに7巻を手にとって見ていただきたいですね。

小川:はい、ぜひぜひお願いいたします。


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▼限界のむこうに一番いいものがある、そこを目指して。

大藤:それでは最後になるんですけど、漫画を目指す若者にメッセージがありましたらお願いいたします。今日、会場の中にも将来漫画家を目指している方がいらっしゃるかと思います。

小川:私が『中華一番!』を描いていた頃とは漫画の市場が変わってきているとは思います。大学時代の漫画研究会の後輩で「漫画家志望です」という人の原稿をよく見たりするんですが、僕の主観かもしれないんですが、わりと日常というか、自分の生活まわりのことを描く傾向があるような気がしています。それはそれで突き詰めればすごく面白いんですけど、それだけじゃなくて、もうちょっと自分で調べたり取材するなりして、題材の幅を広げていってほしいなというのがあります。「なんでそんな漫画を描くのか」と質問すると、「自分が経験したことしか描けないじゃないですか」と言われるんですが、じゃあ例えば宇宙旅行の漫画を描いている人が宇宙旅行に実際行ったのか、絶対、行っていないですよね(笑)そこは想像を膨らますことで補ったり、現実以上に面白いことを次々と考えることができると思います。あとは自分自身、坂本龍馬じゃないですけど、枠を外すということです。限界にぶち当たることは私もしょっちゅうあって、月刊連載だったら毎月「もう駄目だ」って必ず思うんです。もう「ここから先、何も思いつかない」ってなるんですけど、経験則としては、絶対その限界の向こう側に一番いいものが待っていることが圧倒的に多いので、「駄目だ」というところまで行ったら「やっとここまで来たか」と思って、その壁をぶち破ってさらに頑張ってほしいと思います。

都丸:そうすると小川さん、毎月毎月プロット打ち合わせ、ネームを切ると、そんなしんどいのに漫画続けたいんですか!

小川:(笑)そうですね、何でこんなことやっているんだろうってすごく思うんですけど、でも結局、結果的にできあがったときの、特にネームのできあがったときの、何なんでしょうね、すごく幸せな気持ちになれるんですよね。辛さの中に一言では言えない面白さが混じっている気がして。繰り返し経験していくとなかなかやめられない。麻薬のような何かがある気がします(笑)

大藤:辛さを乗り越えた先に充実感や達成感などの何とも言えない幸せなものが待っているということですね。

小川:「必ずあります、保障します」と言いたいですね。経験として。

都丸:僕は漫画編集者を20年近くやりまして、そのあと電子書籍の仕事を3年やって、今、ミステリー小説の編集の仕事を2年やっています。みなさんもお聞きかもしれませんが、出版業界はかなり変革の時期を迎えていて、あとネットですね、ウェブでどんどん作品を発表できる場があるという中で、漫画の才能をどこで発揮していくか選択肢がとても増えていると思うんです。僕自身が感じる漫画と小説の部署の違いは、漫画の部署はとにかく新しい才能を育成していこうという気持ちがすごくあるんです。つまり、もし何かの新人賞に応募されて賞を取ったら、それをスタートに「もっとあなたの中に眠っている才能を引き出して、より面白い漫画を作っていきましょう」という姿勢がまだ残っています。小説の部署は正直あまりないんですね。つまり、新人賞を取りました。デビューしました。「あとはあなたの力で切り開いていってください」という感じで、ある意味、良くも悪くも突き放すところがあるんです。僕はネットもそうだと思っていて、ウェブでも作品を発表することはできるんですが、どうやって伸びていくかは、「自力でやれ」という感じですね。編集者の役割は、漫画を描きたいという才能を持っている方を、より高めていくためのサポートをすることだと思っているんです。出版社にはまだその力が残っていると思うんです。漫画を描きたいと思っている方はぜひ一度、新人賞の応募とか、持ち込みとかにトライしていただくと、あなたの才能を伸ばしてくれる、あるいは磨いてくれる、磨きたいと思ってくれる編集者に出会えるかもしれないですね、そのことがとても大切だと思っています。これは、僕ら出版業界がまだ持っている本当の魅力なので、そこは信じてほしいなと思います。

大藤:お二人の言葉は、会場の皆さん大きな励みになったかと思います。

小川:僕も育ててもらいました(笑)

大藤;先ほどのメッセージを参考に頑張ってもらいたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

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